感想:扉は閉ざされたまま

評価:7/10点
文庫化されたので最近妙に各所で話題になっている石持浅海の作品を読んでみました。
話は所謂倒述形式、つまり犯人視点のミステリ。
「洋館を舞台にした密室殺人」というプロットはお約束を踏襲していますが、本作の肝はタイトルの通り「密室状況だけがあり、中の状況が不確定」という所にあります。謂わばこの眼前の状況(密室)は何を意味するのか?「部屋の中に居るはずの人物が出てこないのはただ寝てるだけか?事故か?自殺か?他殺か?」という「ホワットダニット」がメインテーマに据えられており、確定出来ない状況における犯人(主人公)と探偵役を含む登場人物の議論の応酬が非常に丁寧に描かれています。
ちなみに同じようなホワットダニット物としては西澤保彦氏の「麦酒の家の冒険」なんかも名作です。今日書店に行ったら数年前の作品なのに新刊棚に置かれていてびっくりしました。どうやら増刷されたようで何よりですな。
ただ、少し欠点を挙げると、議論の積み重ねは非常に丁寧で読み応えがあるのですが、人物描写に若干の違和感が。主人公と探偵役が能力的に特権的な地位(謂わば天才)である様に描写されているのですが、今一それが上滑りしている感じがするんですよね。如何に周囲の人物の行動をコントロールするか、という「操り」問題を意識しているであろうというのは非常に理解出来、その目論見もかなりの部分成功していると思えるだけに、少々残念。「犯人と探偵役の空中戦(主導権の取り合い/メタ合戦)」を一人称視点でやるとどうも鼻に付く感じになるのだなぁ、と。
それからAmazonレビュー他の感想サイト各所で瑕疵としてやり玉に挙がっている「動機の不自然さ(一応伏せ字)」についてですが、ミステリなんてそんなもんじゃないかな、と(暴言)。語りへの感情移入の難易度が評価に直結してしまう一人称視点の功罪、ってのもある気が。
本格ミステリとしては地味ながらも丁寧な描写が光る意欲作、と言った所。ホームラン級ではないですが、十分ヒットに値するかな、と。もう少し人物描写に魅力があれば他の作品も読みたくなるのですが(苦笑)、さて、どうするかなぁ。

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

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扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

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