感想:四畳半神話大系
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2008/03/25
- メディア: 文庫
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- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2004/12
- メディア: 単行本
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評価:8/10点
森見登美彦の2作目を文庫で購入&読了。森見作品を読むのは4作目*1。
大学3回生の春までの2年間を思い返して、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえか? トンチキな大学生の妄想が京都の街を駆け巡る!(amazonの紹介より引用)
本作では薔薇色のキャンパスライフを夢見て大学に入ったはずの主人公が、いつの間にか友達もおらず、恋人も出来ず、大学の授業にも出ずに四畳半の自室で退廃的で自堕落な生活を送っている事に気付き、後悔する事から物語は始まります。
「もし入学時のあの時、選択を間違えなければ」、と。
ここまでは良くある青春小説の一節。しかし、この作品が面白いのは作中の4つの短編で、ありえた筈の4つの可能性がそれぞれ選択された状態から始まる、という点。
入学時点で選択肢にでた4つの団体のそれぞれに所属した主人公は、それぞれ相似した形で全ての可能世界において全く同じように現状を嘆きます。「もしあの時ほかの団体を選んでいたら、こんな事になっていなかったのに」、と。
同一の事象に対して多視点で繰り返し語る、という物語は近年非常に多いですが*2、同一の視点に対して事象を繰り返す、というのは希少だと思います。小説だと西澤保彦の「七回死んだ男」が挙げられるでしょうか。
多視点で語る事の最大のメリットは「繰り返し語る事で事象の構造がより鮮明になる(事により語る対象である事象を複雑化出来る)」、という点だと思いますが、対して多事象を同一視点で繰り返し語る事の最大のメリットはやはり「登場人物の描写を深く掘り下げる事が出来る」という点ではないでしょうか。
他の可能世界に舞台が移っても、全く出てくる登場人物は変わりません。しかし、主人公との出会い方・関わり方が少しずつ変わる事で、それぞれの人物が様々な側面を見せます。同じシチュエーションに対して同じ反応を繰り返しながらも、少しずつ立場が変わる事で物語の中での役割が変わっている、という。登場人物はわずか10人足らずですが、それぞれが非常に魅力的に描かれています。
主観的な「変わらない自分」という不可能性に絶望しながらも、それでも、相対的な関係性によって人は変わる事が出来る、という逆説的ながらも希望に満ちた話なんじゃないかな、と。そんな事を思いました。
それから文庫巻末の解説で「コピペの様な繰り返し(意訳)」と指摘されていましたが、まさしくノベルゲーム的。繰り返し読まされる序盤の日常描写を既読スキップで飛ばしてしまう感覚を文体として持ち込んだ感じ、と言えば一部の人(笑)には解りやすいでしょうか。
ともすればその繰り返しに飽きてしまう人もいるかと思いますが*3、繰り返し噛めば噛む程味がでる、そんな作品だと思いました。森見作品入門編としては癖があってちょいと微妙かも知れませんが、デビュー作より確実に筆力は上がっています。お勧め。