感想:森博嗣著「探偵伯爵と僕」

評価:7/10点

探偵伯爵と僕 (講談社ノベルス)

探偵伯爵と僕 (講談社ノベルス)


探偵伯爵と僕 (ミステリーランド)

探偵伯爵と僕 (ミステリーランド)


森博嗣のノベルス新刊を購入。(おそらく)講談社ミステリーランド初ノベルス落ち作品ではないかと。
以下感想。(極力ネタバレを避けています)


思ったよりずっと楽しめました。主人公の小学生が森博嗣節全開で楽しいやら苦笑するやらでそこが駄目な人は全然駄目かも知れませんが、森博嗣の日記を読んでニヤニヤ出来る人には全く問題ないでしょう。
ミステリ的には至って普通。特に大がかりな仕掛けもないし、謎解きに重点が置かれている訳ではありません。元が子供向けレーベルという事でそこはシンプルにまとめた印象です。
しかし、そこはトラウマ製造器ミステリーランド。最後の数ページで見事に物語をひっくり返してくれます。物語は主人公の一人称視点による夏休みの日記形式を取っているのですが、それが最後にこんな意味を持つとは思いませんでした。叙述トリックをこういう意図で使ってくるとはなぁ、といった所。
通常の叙述トリックは性別や年齢などの属人性を誤認させたり、犯人の行動を意図的に隠す等で使われるものがほとんどだと思いますが、今回の叙述トリックは更に一段メタに上がった使われ方をしています。元々叙述トリックはある「事実」を隠蔽して、読者を誤認させるメタなトリックですが、今回更に「事実」そのものの誤認から、「物語の性質」そのものの誤認を(主人公が)意図して、叙述トリックが使用されています。
そしてその叙述トリックにより、読後感の嫌な感じもが一気に増しております。嫌度で言ったら麻耶氏の「神様ゲーム」に匹敵するかと。講談社の担当編集は(良い意味で)底意地が悪くて良いですね(苦笑)。幼少期にこんなんばっかり読んでたらろくな大人にならん気がするけどなぁ(苦笑)。


もう一つ作品自体をメタな感じで論評すると、ミステリランドレーベル作品でもちゃんとノベルス化したのは非常に評価に値すると思います。んでノベルス化を編集部に確約させたのも、確か森氏自ら行っていた筈。やはり利幅が小さくてもきちんとノベルス化・文庫化する事でより多くの読者に作品を届けようとする姿勢は、作家・森氏の職業意識が垣間見える良い点だなぁ、と。作品・作家本人の言動共に毀誉褒貶の激しい人ですが、嫌いな人も作家としてのそういう姿勢はちゃんとみてほしいな、と。そんな事を思いました。


過去のミステリーランド作品感想
麻耶雄嵩神様ゲーム
http://d.hatena.ne.jp/aerialcity/20061213/1166024958
殊能将之「子どもの王様」
http://d.hatena.ne.jp/aerialcity/20061129/1164815390