黄金色の祈り

黄金色の祈り 文春文庫
西澤 保彦 / 文藝春秋

あらすじ

他人の目を気にし、人をうらやみ、成功することばかり考えている「僕」は、高校卒業後、アメリカの大学に留学するが、いつしか社会から脱落していく。しかし、人生における一発逆転を狙って、ついに小説家デビュー。かつての級友の死を題材に小説を発表するが…作者の実人生を思わせる、青春ミステリ小説。


今のところ、西澤保彦の著作の中で私のベストです。かれこれ購入して半年で3度は読み返しました。
何がすごいって、こんなに「イタい」小説は中々無いです。

主人公は人生の中で挫折に直面する度に、自己欺瞞と逃避を繰り返していきます。
主人公の人生はほとんど著者のプロフィールそのままであり、そのことを前提に読み進めると私小説さながらの異様なリアリティを持ち始めます。
特に作家になってからの描写に、

デビュー作が新人賞の最終選考に残ったが、選者に「他の候補作とレベルが違いすぎる」と酷評され、しかし世間からはそのデビュー作が最高傑作と評され、何年経ってもデビュー作を越えることが出来ない(要約)

というのがあるのですが、
著者自身、3作目の「7回死んだ男」が理作家協会賞の最終候補になりながらも「他の候補作とレベルが明らかに劣る」とされ、しかも世間ではこの作品が最も評価されています。


他人に傷つけられることはあっても、他人を傷つけることは決してない。
それがオレという人間だ。
そう思い込んでいた。
(中略)
他人に傷つけられることはあっても、他人を傷つけることは決してない−
そう思いこんだ時点で、すでに僕は、傷つける側に回っていた、とも言える。

学生時代の描写などは、少しでも心当たりのある人にとって強烈に響きます。
誘鬱剤として効果覿面です。