感想:クライマーズ・ハイ

評価:6/10点

クライマーズ・ハイ
クライマーズ・ハイ横山 秀夫

文藝春秋 2003-08-21
売り上げランキング : 2565

おすすめ平均 star
star85年、夏
star非現実的で非リアル
star大事故の報道合戦に翻弄される新聞記者の濃密な日々を描く

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クライマーズ・ハイを公開初日に渋谷で鑑賞。満席と言うほどでもなく、かといってがらがらでもなく、という感じのまあまあの入りでした。
公式サイトはこちら→
横山秀夫氏の原作本は未読の状態で鑑賞。ちなみに鑑賞後に原作を読破したのでもう一回観たらまた感想が変わるかも知れません。
話の筋としては、架空の北関東新聞を舞台に、遊軍記者の主人公が史上空前の日航機墜落事故に全権デスクとして関わりながら、到達困難な事故現場、他社との報道合戦、そして社内の政治闘争に翻弄される1週間を克明に描いています。
原作者の横山秀夫氏が元上毛新聞記者として実際に日航機墜落事故に関わっていたこともあり、リアリティの高さは折り紙付き。報道人として一生に一度関われるかという様な大事故に地元マスコミとして関わるという「お祭り騒ぎ」の狂騒をバックに”地元地方紙対大手紙”という社の外側のフレームと、社の内側のフレーム、そして主人公の「父対子」という自身の内面、3つのフレームが複層的に絡み合う事で重厚な人間ドラマに仕上がっています。特に社内の対立構造は、「現場記者対デスク」「デスク対部長・局長」という縦の構図だけでなく、「編集局対広告局・販売局」という一段メタに上がった横軸の構図、更にそれを包括する「絶対的な権力を握る社長対その他」と、社内の人間関係を綿密に描く事でリアリティを持たせる事に成功しています。
そして、プロットもさることながら、演出面も非常に良い作品です。現場の臨場感を高めるカメラワークは非常に凝っていますし、人物描写でも堺雅人演じる佐山が常にポケットに小銭を入れてじゃらじゃらと鳴らしていたりと、特に伏線でも何でもないけれどもケレン味だけはたっぷりとある、といった感じ。あまり私はプロット重視で、演出面を重視して映画を鑑賞しないのですが、それでも面白いことやってるな、と思えるぐらい巧く機能していました。
その辺りは他ブログの↓の記事で的確に言及されているので要参照。この辺の映像面の教養はもう少し養って行きたいな、と思ったり。
2008-07-11 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール
それから堺雅人の演技は実は初見だったのですが、非常に良い演技をしていました。要チェック。
難を言えば、物語のフレーム(構造)が複層的過ぎて、長尺になってしまった点が惜しいかな、と。テーマが多すぎて、どれも結果的には中途半端になってしまったように思います。特に主人公の私的な部分。その辺ある程度ばっさりと端折ってしまった方が良かったんじゃないかな、と。
ともあれ。最近の金の掛かった日本映画は大概駄作という偏見があったのですが、普通にちゃんとした良い映画でした。夏休みに観るにはちょっとおっさんくさい映画ですが、鉄板といえば鉄板かな、なんて思ったり。


以下蛇足的なネタバレ言及。閲覧注意。


結局のこの主人公、本筋の日航機事故に対しては何一つ「達成」してないんですよね。色々手を尽くして現場の為に頑張るけれども、必ず別の大きな権力に潰される。そこが非常におっさん小説的。青春小説の「困難を乗り越えて何かを達成する(出来る)」という青臭さをなんだかんだで否定している、というのが何とも言ないもやもや感。JOJOのポルナレフの名言「かわせない。 現実は非情である。」みたいな。
現実の事故をテーマにする以上、架空の新聞社とは言えそう史実を無視した無茶は出来ない訳で*1、結局「小説は事実より奇なり」なのかな、なんて思ってしまったりしました。原作者が扱う事象に対して近すぎるが故にリアリティは出る一方、フィクション的なサプライズは薄れる、と。要はそのバランスなのでしょうが。ただ、「現実のなんともならなさ」を見せつけたクライマックスで主人公の「最後の決断」を曖昧にするのはどうなのかなぁ。結局主人公は社長に屈して記者の仕事を取るのか、それとも「父」の呪縛を断ち切ったのか。
あと、高嶋政宏が後半完全に空気。彼が倒れた原因のスキャンダルの行方はおろか、生死すら直接言及されないのはちょっとなぁ(苦笑)。
全体的に、前半の「お祭り騒ぎ」の疾走感が、後半息切れして結局最後はもやもやして終わる、といった感じ。その辺非常に惜しく思いました。
最後に。別に海外ロケは全く要らなかったと思うのだけど。(おそらく)話題作りだけで適当に入れてみました、というのがなぁ・・・。そういう小ネタに大金かけるくらいだったらもっと他にリソース配分するところがあると思うんですがね。

*1:「ZODIAC」も同じ構図。現実の未解決事件を扱う為、結局最後はもやもや。