感想:バベル

評価:6/10点
先日映画の「バベル」を鑑賞。
「バベル」とは、つまりディスコミュニケーションの比喩。ディスコミュニケーションがもたらす4つの悲劇が平行して描かれていきます。
正直、時系列の異なる4つのストーリーを並行して描く、という演出は失敗だったのではないかな、と。別に群像劇、という形式自体は悪くないのだけれども*1、構成がいまいち。群像劇のメリットは、独立している筈の個々のエピソードが、伏線の回収によって綺麗に一枚の絵のように繋がっていくことで一種のカタルシスを生む、ってところだと思うのだけれども、この作品ではほとんど冒頭で悲劇の概要が判明してしまう。悲劇的な結末が確定している中で、その過程を順に追っていく、というのは観ていて非常に精神的に辛いものがありました*2。まぁ、そもそも「バベル」というタイトルの時点でこれは崩壊の物語なのだな、と思っていましたが。
更に先に難を言えば、日本のエピソードの他との繋がりの薄さもまた微妙さを増幅させています。
それでも、この映画は非常に見所の多い映画だと思いました。
映画全体では若干浮いている日本のエピソードも、単体で見れば非常に考えさせる内容です。思春期における限りない「承認欲求」の業、というものを非常に巧く表現しています。また、聴覚障害者の世界を現した「無音」の演出は特に秀逸だと思いました。
そして圧巻はメキシコのエピソード。メキシコでの結婚式のシーンでは異なる世界の者同士の交流の可能性が垣間見えた束の間、ちょっとしたアメリカ人とメキシコ人のディスコミュニケーションによってすべてが崩壊していきます。同じ言葉を話しながら、全くコミュニケーションが機能しない悲劇、という作品のテーマを一番巧く表現しているのではないかと。
この作品に出てくる人物は皆総じて愚かなのですが、その愚かさを全く嗤えない。そんな映画だと思いました。
しかし、菊池凜子の裸体は全然有難味がないなぁ、なんて思ってしまったり(苦笑)。
プロット面で減点してこの点数ですが、見所は多い映画です。思考の海に沈みたい時などにお勧め。


他ブログでは下記の記事がお勧め。非常に読ませる記事です。
http://d.hatena.ne.jp/samurai_kung_fu/20070501
http://katoler.cocolog-nifty.com/marketing/2007/05/post_a305.html

*1:同形式の伊坂幸太郎のラッシュライフ等は秀作だと思う。

*2:この辺は個人の好みだと思いますが。悲劇自体は嫌いじゃないんですが、悲劇が最初から確定している悲劇は苦手なんですよね・・・。