感想:宇宙消失

評価:8/10点

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)


珍しく休日にほとんどなにも用事が無かったのでグレッグ・イーガンの「宇宙消失」を購入→4時間で読了。
現在同著者の「万物理論」を絶賛途中放棄中(苦笑)なのですが、こちらは一気に読めました。短編集で若干の耐性が出来ていたのと、「シュレディンガーの猫」を始めとする量子力学に若干の(SF的な意味での)前提知識があったからでしょうか。
「2034年、地球の周辺が<バブル>と呼ばれる謎の物体によって取り囲まれ、一切の星が見えなくなってから30年余りが経った世界」という世界設定からして大ネタなハードSFですが、ありとあらゆる領域でSF的なガジェットが盛りだくさんとなっています。
巻末の訳者あとがきの通り、本作は大きく分けて

  • ナノマシン、遺伝子工学、脳医学の発達を主とする数々のガジェット群
  • <バブル>によって閉鎖された地球
  • 量子力学を基礎とする多世界解釈

の3本の柱によって構築されていますが、そのどれもがそれ単体で十分長編を書ける程緻密に構築され、かつ、その3つが見事に繋がっていきます。
そして3本の柱によって導き出されるのは、イーガン作品共通のテーマでもある、「自己とはなにか。自由意志とはなにか。」
脳内のナノマシンによって脳内物質を制御し、感情を制御し、自発的な忠誠心を植え付け、そして「脳内嫁」まで作れるとしたら、では私を私として認識している「自己」とは何なのか?
今いる自分が無限にある可能性の一つの結果に過ぎないのだとしたら、では今ここに居る私に「自由意志」というものはあるのか?


未来技術に対する想像力と、アイデンティティに対する思考、両者が非常にハイレベルな形で両立した、傑作と呼ぶに値する作品だと思います。
また、小ネタとして「オーウェル的思考」「二重思考」といった言葉が出て来たのには思わずにやりとしてしまいました(笑)。2067年のオーストラリアにジョージ・オーウェルの「1984年」を知っている人間がどれだけ居るんだよ、なんて思いましたが(苦笑)。
今のSFX技術で映画化したら非常に面白そうですが、宗教批判の要素が強すぎてちょっと難しいかも知れませんね・・・。でも観てみたいなあ。