感想:境界線上のホライゾン 1下

評価:8/10点


境界線上のホライゾン第1話完結。いわゆる物語の序章としては見事な出来でした。新シリーズ立ち上げにおける世界観の説明と主人公サイドのキャラクター性と戦力の顔見せ、という二つの難題を比較的順調に描いていたと思います。
以下一応ネタバレ無しで感想。
今回色々理解の難儀な世界設定がてんこもりな訳ですが、全体的なシリーズの概要としては「SFファンタジー版戦記物」と「バトル小説へのTRPGルール導入」というテーマの理解で問題なさげ。
とりあえず「SFファンタジー版戦記物」という点では、「戦略性」についての描写が非常に多いのが特徴かな、と。既存のライトノベルの大半はRPG的な局地戦オンリーだと思うのですが、今回明確に国対国の戦いをテーマに打ち出しており、それによって殴り合いの戦力分析のみならず政治・経済・戦術の各要素の描写をかなり頑張ってます。なかなか「自国の自給率」とかハードな戦記物でもない限り出てきませんよね。
それに伴い、主人公サイドのメンバーも政治家・商人・軍師等の非戦闘系の職種が充実しています。描写自体も敷居を極力上げないように配慮されていますが、さてさて、今後このクオリティが持続するかどうか、楽しみです。
んで後者の「バトル小説へのTRPGルール導入」ですが、個人的にはこれが今作の肝かな、と思っています。
所謂RPG、例えばドラクエやFFなんかでは戦闘系職種の戦士や格闘家と非戦闘系職種の商人や踊り子が同じ土俵で戦っています。戦略さえ当たれば、戦闘のプロである戦士にも商人が殴り合いで勝つことが出来る訳です。しかし、現実は「三寸斬り込めば人は死ぬ」訳で、普通に描写したのでは戦闘のリアリティを出すのは難しい。所謂説得力のある「頭脳戦」が更に難しいのはご承知の通り。
んで今作、その解決として世界設定に導入したのが疑似的な「TRPGルール」。RPGの魔法使いがMP=精神力を引き換えに戦士に匹敵する物理的殺傷力を得る様に、今作では「八百万の神との契約」「魔術」等々を使用する事により、物理的な殺傷力とその他の「力」を相対化し、同じ土俵で戦わせる事が出来る訳です。例えばこの世界では、非力な商人は商売の神との契約により金という対価を払う事で「労働力」を得、それを身に宿す事で戦士に匹敵する攻撃力を得る事が出来る、と。「戦士の腕力」「商人の財力」「巫女の神力」「魔女の魔力」「踊り子の演技力」、それぞれの「力」を等しく同じ土俵に上げる事で異なる職種の殴り合いに説得力を持たせる事に成功したのではないかと。
これにより、バトル物の演出手段としてドラゴンボールを代表とする「力の数値化」、ジョジョを代表とする「能力/シチュエーションの多様化」に続く第3の選択肢として「力の相対化」に成功した代表作として今作が挙げられる・・・ようになるかは解りませんが(苦笑)、非常に面白い試みをやっていると思います。正直世界設定の複雑さ等一見敷居は非常に高いですが、その世界設定の「作劇上の目的」を意識して読めれば実はそんなに難しくないんじゃないかと思ったり。非常に読む人を選ぶ作家ですが、新シリーズ第1作と言う事で新たな川上信者が増えれば幸いかなと。この機会に是非。
参考:1上巻感想その11上巻感想その2