感想:ダークナイト

評価:9/10点
映画『ダークナイト ライジング』公式サイト
10日ほど前に新宿のバルト9で鑑賞。
前評判通りの大傑作でした。
2時間30分を越える長尺の映画ですが、邦画のアクション映画にありがちな中盤のダレが全くなく、最後までノンストップの疾走感を味わえました。
とりあえず「ベタなハリウッドのアクション映画」としても十分に凄い作品だと思います。中盤のバットモービルによるカーチェイスは途中のサプライズも含めて圧巻の一言。これだけでも十分に並のアクション映画ならばおなかいっぱいなのに、随所にクライマックス級のアクションシーンの山が入り、その大盤振る舞いっぷりは最初から最後まで観客を飽きさせません。
そしてジョーカーを演じるヒース・レジャーの演技はまさしく神業。「狂気」の体現者としてのジョーカーを見事に演じきっています。そんなに深い映画ファンでもない自分が言うのもおこがましいですが、この作品が遺作になってしまったのが非常に惜しまれます。
少しテーマについての考察も。
「掛け金をつり上げているのは誰か」なんて事を観ていて思ったり。
「善/モラル」の体現者としてのバットマンと「悪/狂気」の体現者としてのジョーカーは対立を宿命付けられている訳ですが、その闘争は次第にエスカレートしていきます。最初は単なるチンピラとして劇に登場したジョーカーは、銀行強盗を振り出しに、次第にその行動をより過激に、より凄惨にしていきます。それに対してバットマンも、私刑執行者として、法の枠内から枠外へとあさっての方向に突き進んでいきます。
金や支配欲、復讐といったわかりやすい、明確な動機のない純粋な「狂気」によって行動するジョーカーを止める方法はなく、バットマンは翻弄されっぱなしで「より強大な力を持つ」事で辛うじて追いつき、後手後手に対抗する事しかできません。
そしてジョーカーはそんなバットマンに対して、「おまえは怪物だ」「お前がいるお陰でおれはチンピラからここまで成り上がることが出来た」と言い放ちます。「善」と「悪」の終わり無き闘争のスパイラル。破滅すれすれを渡りながら、果たしてここまで掛け金をつり上げたのは誰か?現在のアメリカの状況に対する批評性を感じずには居られませんでした。
それからジョーカーとパトレイバー内海課長との類似点なんかも考えると面白そう。動機のない幼児的な狂気を体現する企画7課/内海が用意した採算度外視のモンスターレイバー・グリフォンに対して特車2課/泉野明は新型のレイバーではなく原点であるイングラムに最後まで拘り、「お祭り騒ぎな狂気=非日常」に対して「愚直なまでの日常の積み重ね」によって勝利した訳ですが、さて、バットマンは今作で積み残したジレンマに対してどのようなけりをつけるのでしょうか?今から次作が楽しみです。


それにしても今年は個人的に大ヒットな洋画が多くて大満足です。今回のダークナイト以外にも、
ジェシー・ジェームズの暗殺」「ノーカントリー」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「ホット・ファズ」(リンクは既述の感想)月に1本も観ないような自分がちょっと挙げただけでもこれだけあります。
ただ、これらの映画全て何かしらメタ/批評的な視点を持った映画なんですよね。洋画の興行成績が落ちているというニュースがありますが、(参考=2008-08-25 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール)微妙に宣伝しにくい、というのもあるかもしれないな、なんて思ったり。自分が良いと思った映画がランキングにすら入らないと流石にがっかりしますが、そういう不遇な環境にはミステリとかで慣れっこなので、まあ、そんなもんですよね、としか(苦笑)。地道にブログで啓蒙活動(苦笑)を続けて行きたいと思います。