感想:スカイ・クロラ

評価:6/10点

スカイ・クロラ

スカイ・クロラ


昨日渋谷で鑑賞。興行成績は振るっていない、との話でしたが8割ぐらいの入りでそれなりに客は入っているようでした。公開館数の違いでしょうか。てか夏休み公開でポケモンとポニョには普通勝てないよなあ(苦笑)。意外だったのはそれなりに女性客が多かった事。加瀬亮効果?
あらすじは省略。知りたい人は公式サイトの予告編を観て下さい。それで8割方説明されてます。
以下感想。一応致命的なネタバレは回避している、筈。
とりあえず空戦シーンは圧巻の一言。プロペラ機が異様に格好良く見えます。CGの美しさはイノセンス等の前例もあるので前提だとしても、冒頭の空のシーンから一気に引き込まれます。そして、見た目のCGの美しさだけでなく、計算されたカメラワークの演出は流石としか。しばらくこれを越える空戦シーンはアニメ・実写含めてもなかなか観られないのではないでしょうか。アクションシーン自体の量もこれまでの押井作品に較べれば10割増しくらいの大盤振る舞い。この空戦シーンを観るだけでも十分に観る価値はあると思います。
と、アクションシーンを褒めちぎったところでそれ以外。
とりあえず菊池凛子の演技はどうしようもなく駄目駄目でした。「感情を抑える台詞」が完全に棒になってます(苦笑)。加瀬亮もかなり厳しい。二人の会話シーンは「なんでこいつらここまで下手なんだろう?」ってのが気になってストーリーに集中出来ませんでした(苦笑)。
森氏の作品の特徴として、「息をするようにアフォリズム(箴言)を吐く」台詞回し、というのがあると思うのですが、どうにも実際にキャラクタに喋らせると違和感につながるのかな、と。現実と遊離した厭世観が巧く表現できていない感じ。今回原作をほぼそのまま踏襲していましたが、その辺脚本で弄っても良かったと思うんだけどなあ・・・。どうせ押井作品だし、相手はその辺頓着しない森作品なのだから、多少の所謂「原作レイプ」は逆にあっても良かったと思います。流石に引用しまくりだと違和感あると思いますが(苦笑)。
ただ、それ以外の出演陣、特に谷原章介氏の演技は非常に良かったと思います。ベテラン声優と較べても遜色ない出来。榊原良子氏も流石の出来。脇を巧い役者で押さえる事で何とか作品のクオリティは保ったかな、と。
事前に劇場で観ていた予告編含め、最初に思ったのは「何でこんなに事前情報出しまくりなんだろう?」という点。客観的に見て森信者(苦笑)である私は当然のように原作既読な訳ですが、いくらなんでも事前にネタを割りすぎだろ、と。観る前はイノセンスのようにこれはマーケティング戦略の一環であって、押井監督の意図とは別にあると思っていました。
しかし、通してみて印象が変わりました。結局この作品、テーマに関わる重要な点を全て台詞で明示してしまっているんですよね。これはあまりにも観客の読解力を低く見積もりすぎ。特にラストの独白はいくら何でも嘗めすぎでしょう。加瀬亮の駄目っぷりと相まって、非常に聞いていて醜悪に感じました。「若者に観てほしい」という押井監督の意図がこういう形で現れたのだとしたら、ちょっと残念に思います。
今回の映画、どうにも「語りすぎ」な印象。森博嗣氏の原作「スカイ・クロラ」が「客観的な描写が徹底的にそぎ落とされる」事で主観的な主人公/登場人物の語りのみが浮き上がり、「客観的な事実」の見えない足場の不安定な世界観が構築された作品であるとするならば、押井版スカイ・クロラはとにかく説明が多い。
予告編でのネタばらしはもとより、劇中の演出(例えば新聞やテレビ、登場人物の癖等)でも繰り返し執拗に客観的事実が補強されていき、さらにその上登場人物の台詞が完全に「説明台詞」になっています。これは原作と映画版で、語っている台詞内容は同一でも、物語上の「機能」としては真逆ではないかと。
プロット上でも、「ラストの原作の改変(ネタバレ文字伏せ)」は、原作の空虚で厭世的な雰囲気が単なる若者への「発破掛け」に反転していどうにも気持ちが悪いなあ、なんて思ったり。
非常に原作に忠実な作品ではあると思うのですが、それ故に、表面上の違いではなく、「根本的な思想性の違い」が出てくるのは面白いな、と思いました。
このままそんなにヒットしないとは思いますが(苦笑)、アクション重視のアニメファンには外せない作品だと思います。説明過多で解りやすいので衒学趣味に尻込みするような一般人にも安心して勧められます(苦笑)。ブルーレイでもう一回観てみたいなあ。