感想:ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
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評価:8/10点
GW2日目、渋谷で公開2日目に鑑賞。流石に人が多く、丁度満員くらいでした。
重厚なストーリーもさることながら、やはり見どころは演技。主人公演ずるダニエル・デイ=ルイスの圧倒的な存在感は必見です。また、主人公の対立軸となる神父役のポール・ダノもかなり良い味出してます。「リトル・ミスサンシャイン」で沈黙の誓いを立てたあの兄ちゃんと同じ役者だとは全然気付きませんでしたよ(苦笑)。ここまで印象ががらりと変わるとはなぁ。また、音楽も非常に良い出来です。
所謂ポータルサイトの映画紹介等では「強欲な石油王が破滅するまで」といった粗筋で紹介され、映画館に掲示されていた新聞の映画評(おそらく地方紙)でも「村上ファンド」と絡めて強欲な資本主義者を批判する形で紹介していましたが、私は別の印象を持ちました。
今作では、主人公ダニエル・プレインビューが孤独な金鉱堀りから石油を掘り当て、そして石油王になるまでを描いています。主人公以外の登場人物の描写は極力絞られており、あくまで主人公が中心となって終始物語の軸がぶれる事はありません。そして主人公の周囲に現れる人物は、例外なくダニエルの「プレインビュー」に晒される事になります。
ダニエルに唯一対抗するのは神父のイーライ。ダニエルが開発しようとする土地で所謂福音派のカルトな教会を運営しているのですが、事ある毎に執拗にダニエルに絡んできます。土地購入の際に口約束した5000ドルの寄付を目当てに、石油採掘着工の際には「祝福してやる(から金くれ)」、工員が事故で亡くなった際は「私が祝福しなかったから事故が起こった(だから金を払え)」、一人息子が事故で聴力を失ったときも「お前が不信心だからこんな事になった(だからさっさと金を払え)」と、信仰の仮面の下に隠された欲望を剥き出しにしながら。しかしダニエルは時には「私は全ての宗派を信仰している」とうそぶき、時にはその訳知り顔を怒りに任せてしこたまぶん殴りながらその信仰の欺瞞と欲望を見抜き、激しく罵倒します。
福音派という原理主義的な「信仰」が圧倒的な資本主義の力の前で「欲望」という双生児の様に相似形な本質を見抜かれ、そしてけちょんけちょんにされる様は現代アメリカの業を表現すると言う意味で非常に批評的な作品だと思いました。先日観た「ノーカントリー(既述感想)」も含めて今回のアカデミー賞は非常に批評的なラインナップだな、と。
また、圧倒的な暴風雨のように欲望のまま突き進むダニエルはしかし、その孤独故に家族という唯一不変の関係性を求めます。仲間の遺した男の子を引き取り、突然現れた「異母兄弟」を仕事のパートナーとする事で。しかし、絶対に見えた家族という関係性も、ダニエルのその「プレインビュー」でもって結局は自ら破壊してしまいます。「家族=血縁」という絶対不変の真実を求めながら、それが幻想に過ぎない事を自ら白日の下に晒してしまう。「There will be blood」というタイトルから、「blood=血縁」という「幻想」が成立せず、「石油」「血」という「事実」のみが存在する、と。そんな事を思いました。主人公が周囲全ての「幻想」を破壊し尽くした瞬間、文字通り映画は終わります。
観ていて演技、ストーリー、音楽、とどれも非常に圧倒させられる大作映画でした。これは映画館で観なきゃ損でしょう。日本での興行成績的にはぱっとしなさそうなのがもったいないなぁ・・・。
下記は鑑賞前に参照したブログ。筆力と熱量の高さで鑑賞意欲が一気に高まりました。感謝。
2008-04-30 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール