感想:ノーカントリー

公式サイト:老いたる者は何を思うのか。映画「ノーカントリー」=世の中は計算違いで回る=
評価:9/10点
いつもまにやら1ヶ月更新してませんでした(汗)。
って事で新年度1つめのエントリー。
アカデミー賞も取った話題作、「ノーカントリー」を鑑賞しました。
あらすじはざっくりと説明すると以下のような感じ。

メキシコ国境に近い砂漠でハンティング中に、偶然、死体の山に出くわしたルウェリン・モスは、大量のヘロインと現金200万ドルが残されているのを見つける。危険を承知で大金を奪ったモスに、すぐさま追っ手がかかる。必死の逃亡を図るモスを確実に追い詰めて行くのは非情の殺し屋アントン・シガー。そしてもう一人、厄介な事件に巻き込まれたモスを救うべく老保安官エド・トム・ベルが追跡を始めるのだった(goo映画より引用)

以下感想。ちなみに他のコーエン兄弟監督作品は未見です。
とにかく批評性が高く、しかもグロいので一般性は限りなく低いです。アカデミー賞作品って事でカップルで鑑賞した日には泣きを見る事請け合い。
ただ、殺し屋シガー役のハビエル・バルデムが凄まじい怪演をしているのでそれだけでも一見の価値があります。「独特の論理性を以て人を惨殺していく殺し屋の狂気」と、文字で書くのは簡単ですが、それを立ち居振る舞いだけで表現するのは流石としか。普通の商店のおっちゃんとの会話だけで「あ、こいつ狂ってるな」と観客の誰もが納得出来るってのは驚異的ですよ。
マフィアだろうが一般人だろうが淡々と、容赦なく、それこそ屠殺のように人を処理していく様は嫌悪を通り越してシュールさすら感じます。
それからシガーが全裸で(苦笑)怪我の治療をする際の偏執的だけどどこかシュールな演出等、微妙に狂った感じで見所満載です。
所謂感動系やアクション系を期待する人には全く勧めませんが、かなりの傑作だと思います。


ここからネタバレ全開なので分けます。

これは異論の有る方もいるかと思いますが、私は
「(80年代の)ランボー的なヒーローが90年代的な殺人鬼に蹂躙される映画」
だと思いました。逃亡者であるモスはただ無闇に逃げるのではなく、十分に対抗策を用意して殺し屋に対抗し、一時は手傷をも負わせます。これはまさしく80年代的な、「強大な悪に知恵と勇気で立ち向かう」ランボー的なヒーロー映画の文脈です。実際、敵であるシガーの圧倒的な存在感も含めて、中盤まではヒーロー映画の文脈で映画は進行します。
しかし、ヒーローであるモスは最後には無惨に蹂躙されます。それも2重の意味で。
モスが最終決戦の場としたホテルにはシガーばかりか、大金の元の持ち主のマフィア、保安官ベルとモスの妻が集結し、四つ巴の銃撃戦が繰り広げられる・・・筈が、到着した際に観客と保安官ベルが見たのは、既に惨劇が集結し、無惨に息絶えたモスの亡骸のみ。
西部劇的なヒーローである筈のモスは悪に惨殺されるだけでなく、ヒーローとして最大の見せ場であるはずの決戦の場面までも奪われます。
輝ける生の象徴であるヒーローが惨たらしい死によって蹂躙される訳です。
しかし、一方の無慈悲な殺し屋シガーもまた、不意の自動車事故により重傷を負います。普通、こういったシリアルキラーは「人によって殺されず、運命によって死ぬ」という形で、事故によって死ぬ事が多いと思うのですが、シガーは血だらけで腕を折り、足を引き摺りながら歩いて消えていきます。
絶対的な死の象徴で有る筈の殺し屋は、逆に惨めな生を生きる、と*1
生は輝けるものではなく、しかし死もまた甘美なものではない。でも、生きなければならない。
そんな事がテーマなのかな、と思いました。
何だか色々と感想を聞いてみたくなる、そんな深い作品なのではないでしょうか。

*1:ここは解釈が分かれる、というか自分の解釈はむしろ少数派かもしれませんが。