承認欲求は卑怯者を殺すか・・・感想:ジェシー・ジェームズの暗殺

評価:7/10点
日曜日に「ジェシー・ジェームズの暗殺」を鑑賞。本当は渋谷で鑑賞したかったのだけれども、20時開始の1回しか無かったので仕方なく新宿で観る事に。大コケしてるって本当なんだなぁ・・・。
ちなみにこの映画を知ったのはこちら↓のサイトの感想から。
http://d.hatena.ne.jp/samurai_kung_fu/20080117#p1
感謝。
あらすじをさらっと紹介すると

南北戦争にゲリラとして参加し、その後は犯罪集団となったジェシーとその兄フランクが率いるジェームズ一味。彼らが新たに企てた列車強盗計画に、ひとりの若者ロバートが加わった。彼は新聞や本でジェシー一味の活躍を知り、ジェシーに心酔していたのだ。列車強盗を行なった後、一味は分散して身を潜めることに。ロバートはジェシーに側に残るように言われ有頂天になるが……。
(goo映画http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD11908/より引用)

といった所。
以下感想。
第一印象としては「非常に地味」な映画。そもそも日本人にとって「ジェシー・ジェームズ」の知名度が低いため、史実ものとしてつらい。また、開拓時代の割にアクションがほとんどなく、上映時間も2時間40分と非常に長い。かといって無駄なシーンが多いわけでもないのだけれど(過程の描き方が非常に丹念で、この長尺は必然だったと思います。)、結果として非常に地味な映画に仕上がっており、日本人には全く受けないのだろうな、といった所。たぶんアメリカ人には常識であろう史実の前提知識がない日本人にとってはちとつらいかな、と(汗)。
しかし、今作の白眉は「卑劣な裏切り者」ボブ・フォードの描かれ方。彼を演じるケイシー・アフレックの演技が非常に良いです。
所謂いじめられっ子なのに、自尊心だけはやたら高くてつい冷笑と共に余計な一言をはいてしまい、それがさらに「嫌な奴」という印象を増幅させて更にいじめられる。承認欲求をもてあますが故に破滅へと進む様が非常に印象的。
ちなみに自分の行動でも思い当たる点が色々とあって変な汗が出ました(汗)。苦笑・冷笑ばかりで人の行動を論評してたらいかんですな。もっとベタに行動し、メタに自省しないと。
ボブは承認欲求故に「凄い人と一緒にいる俺って凄い」理論でヒーローであるジェシーに近づき、そしてまた承認欲求故にジェシーを殺す訳ですが、暗殺に成功した彼を待っていたのは「大悪人を討った勇者ボブ」への賞賛ではなく、「英雄ジェシーを裏切った卑怯者」としての烙印であり、人々にはその名すら記憶に残る事はありませんでした。
結局の所、他者に依存した自己実現では人は何者にもなれないのだ、と。それは他者に追随しようが他者を踏み台にしようが同じ事。自戒を込めて。
この点によって、単なるアメリカ史実映画としてだけではない、普遍性の担保がなされていると感じます。
また、この映画の面白い所としては、アメリカ人にとってヒーロー(である筈)なジェシーを(ほとんど全く)ヒーローとして描いていない所。本作は開始時点で既にジェシーが名を上げ、(悪の)カリスマとして名声が定着した後、ジェシーが徐々に歪んでいく様を描いています。名声からくる周囲への猜疑に苛まれながら壊れてゆく様は、終わりゆく西部開拓時代とシンクロし、破滅の物語を鮮やかに描きます。ジェシー演ずるブラッド・ピットは流石の演技。時代の寵児としてのカリスマ性と、その裏に潜む猜疑心故に他者を傷つける不安定さを両立して表現する演技力は見事。


結論としては、正直地味な映画であまり万人にはおすすめ出来ないのですが、「崩壊」を描く物語が好みならば中々に楽しめるのではないでしょうか。これでもう少し女っ気とかがあったらもう少し一般性のある派手な映画になったかも・・・(苦笑)。