感想:カナスピカ

カナスピカ

カナスピカ


評価:7/10点
魔術士オーフェンで一世を風靡した秋田禎信氏の初の一般文芸作品。
非常に真っ当な青春小説でした。話のディテールとしては、「少女が空から落ちてきた異星人の人工衛星と出会い、恋に落ちる」、というもの。
人工衛星が恋の相手、というのはそれだけを聞くと結構な変化球ですが、読んで見ると驚くほど普通に青春小説してました。これくらいのSF要素だと普通に一般文芸でもある範囲だと思います。
秋田氏の小説は、設定で思いっきり無理をした上で(例えば哲学的な話など)ライトノベルらしくない真っ当な話をする*1、という印象を持っていたので、今回はそういう毒を極力抜いて真っ当に勝負した、という印象を抱きました。
しかし、文体に若干の難があり、特に前半50ページくらいはかなり微妙な印象。何だか少女の1人称の文章がこなれてない感じなんですよね。そこが一般文芸ファンに受け入れられるかどうか、難しいところかもしれません。なのでちょっと人には勧めづらい。
ただ、これまで高空からの観測で人類を「地表に蠢く微生物」程度にしか認識出来ていなかった人工衛星と、拒絶される事への恐怖から他者との深い関わりを避けていた少女が出会う事で「原始的な」感情を回復していく、というテーマにはなかなかぐっとくるものがありました。


あんまり本屋にも置いてないみたいで先行き不安ですが、次の作品が出る程度にはちゃんと売れて欲しい所です(汗)。ラノベ作家とは思えない程、直球で真っ向勝負な佳作です。それなりにお勧め。

*1:オーフェンの魔法の設定は(机上の)論理性を突き詰める、という点でファンタジーの極北を行ってると思う。