神は沈黙せず

神は沈黙せず〈上〉 (角川文庫)

神は沈黙せず〈上〉 (角川文庫)


神は沈黙せず〈下〉 (角川文庫)

神は沈黙せず〈下〉 (角川文庫)


評価:8/10点
著者の山本弘は「と学会」会長で現在は有名ですが、グループSNE出身でライトノベルを多数著作している作家です。特に近年はハードカバーでSF作品を出しており、当作品はその文庫化されたもの。ちなみにグループSNE作品は中学時代にライトノベルを読み出した当初に良く読んでおり、特にファイブリアシリーズは特に好きな作品でした。懐かしい・・・。
以下感想。
「と学会」会長という肩書きから、作品内のUFO等の膨大なオカルト知識の描写が目に付き、ともすれば「諸所のトンデモ説解説本」として消費されがちな作品ですが、これはれっきとしたハードSF作品だと思います。(京極作品などの)ミステリでも良く見られる、衒学趣味的な作品だと思えば、まあこんなものかな、と。
作品の前半部(上巻の前半)で語られる「世界は神が創ったシミュレーターに過ぎない」という仮定*1はそれだけを見れば陳腐なものだと思いますが、その仮定から論証に至るまでの論理の積み重ねと、そしてクライマックスで明らかになる「何故神は世界を作ったのか」という結論は、正にハードSFと呼ぶべき内容であると思います。
ただ、欠点としては専門以外の未来予測の知識が脆弱な点が挙げられます。特に経済、政治の面においては素人目で見てもちょっと無理がある気が・・・。まあ、その辺は著者自身「本書は未来予測が本題ではない」と言明してますから、舞台装置程度に見ておけばいいのかな、と。それでも一言言えば、南京事件に対する言及はよくあるトンデモ説論破の一例としても、後半の在日差別批判の部分はイデオロギー臭が鼻についてどうも・・・。これに反発する人も結構いそうだなあなんて思ったり。
こういった欠点を差し引いても、かなりの傑作だと思います。「人は(論理的に)正しい事を信じるのではなく、正しいと思った事を信じる」という世間の傾向に対して、常に懐疑の視線を向け、論理的に世界を捉えていこうとする著者の信念の集大成ともいえる作品だと思います。人を選ぶ作品かもしれませんが、お勧めです。
また、この作品が文庫化され、更に著者のSF作品の続巻が刊行されているのを見るに、ようやくSF冬の時代は終わったのかな、なんて事を思ったりしました。

*1:これくらいはネタばれにならないはず。